全国発リーガルジャパン弁護士ブログ

犯罪者の更生

Posted : 2012/09/24

東京事務所の加藤です。
東京では秋分の日以降気温が下がり,朝晩は長袖が必要な程寒くなってきました。
気付けば9月も最終週,裁判所でも10月からクールビズが終了しジャケットを着る運用になる時期になってくるので,これくらい気温が下がってくれないとやってられないかもしれません。

さて,民主党総裁選で野田首相が再選したり巨人が優勝したり,
ロースクール時代に仰いでいた弁護士が最高裁で「前科に顕著な特徴があり、起訴内容とも相当程度類似していて犯人だと直接推認できる場合のみ、証拠とできる」との判断を得たり
(法曹関係者の方は是非上告趣意書をご覧ください。→刑事裁判を考える;高野隆@ブログ
いろいろありますが,
大阪府子供を性犯罪から守る条例が10月1日から施行されるにあたって法務省が犯罪歴の照会に応じる方針を固めたとの報道について,雑感を述べさせていただきたいと思います。

まず,大阪府子供を性犯罪から守る条例とは,

①13歳未満の子どもに対して,挨拶等の社会通念上正当な理由がある場合を除き,
甘言または虚言を用いて惑わし,または欺くような言動をすること
義務のない行為を行うことを要求すること
言いがかりをつけ,又はすごむこと
身体,衣服等を捕え,又はつきまとうこと
を禁止し,犯罪として罰則を設け(いわゆる「声掛け規制」)

②性犯罪刑期満了者に対し,居住地,氏名,性別,生年月日,連絡先,罪名,出所年月日を知事に届け出なければならないとし
違反者には5万円以下の過料の行政罰を科すこと

を規定しております。

この条例に対しては大阪弁護士会会長の反対声明が出されております。
反対声明は多岐にわたり条例に問題があることを述べており,
内容の是非はともかく,議論がなされるべき条例であることは見てとれるかと思います。

その中で,私が特に気になったのは,上記記事が法務省が
「条例が出所者の社会復帰も目的としていることや,提供する元受刑者の情報が厳重に管理されることを確認し、照会に応じる方針を決めた」
と報じているところです。
ここで,照会に応じる方針を決めた理由は
①条例が出所者の社会復帰も目的としていること
②提供する元受刑者の情報が厳重に管理されること
の2点が挙げられております。
しかし,②「提供する元受刑者の情報が厳重に管理されること」というのは
厳重に情報管理されているので情報を開示しても漏洩等の問題が生じる恐れは少ないという
許容性の議論であり,決して照会に応じることの積極的理由には成りえないものです。
(それにしても情報管理の厳重性について「ある法務省幹部は『府側が出所から5年経過後は提供情報を廃棄するとしているので、情報管理は確実にされると受け止めている』と話している」とのことであり根拠があまりにも不明確ではありますが。)

そうしてみると,法務省が照会に応じることとした積極的な理由は①にあることになります。
①では条例の目的に言及しております。
近年成立する法律,条例は第1条に<目的>という項を設け,当該法律,条例を制定した目的や,立法事実(立法の契機となった社会的事実)を明示する例が多くなっております。
大阪府子供を性犯罪から守る条例でも第1条に目的が規定されておりますが,そこには

「この条例は、子どもに対する性犯罪を未然に防止するため、府、事業者及び府民の責務を明らかにするとともに、子どもの安全を確保するための取組を推進し、及び必要な規制等を行い、もって子どもが健やかに成長し、安全に安心して暮らせる社会の実現に資することを目的とする。」

と規定されております。
ここでは,本条例は専ら子どもの健やかな成長,安全安心な社会の実現を目的としていることのみを謳い,出所者の社会復帰には何ら言及しておりません。
また,本条例には前文もついているのですが,こちらにも社会復帰という言葉,もしくはその趣旨の言葉は一つもありません。

これにもかかわらず,法務省は出所者の社会復帰も目的としていることを理由の一つとして照会に応じることを決めたとされております。

言うまでもなく,個人の犯罪歴というのは個人情報としては最も慎重に管理されるべき情報の一つであり,
その開示を行うにはその情報の重要性に応じた必要性,相当性が必要であると言わなければなりません。

私には,それほどの理由が見いだせません。
一部の議論では,性犯罪,特に幼児を対象とした性犯罪の再犯率は非常に高く,だからこそアメリカのいくつかの州では性犯罪者の情報公開法が整えられているとの指摘もあります。
しかし,アメリカにおいても性犯罪の再犯率が高いかは真実そのような事実があるかは疑問視されており,
日本でも再犯率が高いとする信用性の高い根拠は示されておりません。

もちろん子どもは大人に比べて身体的,精神的,知能的に防御が弱いので,一定の保護は必要であり,性犯罪により被る心身のダメージは深刻です。
しかし,そのためには何をしていいというわけではありません。
出所後であっても,性犯罪を行った人がその後も性犯罪を行ったとの経歴がついて回るのは自業自得と言えばそれまでですが,
刑期を終え,更生して,もしくは引き続き社会内矯正を行っていく上で,周囲と円滑な人間関係を築けるかは極めて大きな問題です。

日本の法律は犯罪を行った人であっても改善させなければならないと考えておりますし
犯罪を行ったからと言って全ての人権を奪うことはしておりません。
死刑としない限り,いずれは改善更生し,社会に復帰することを前提としております。

大阪府子供を性犯罪から守る条例はこの法律の考えに反し,刑を加重するものでしょう。

このような犯罪者の人権を大きく侵害し,法が認めた社会復帰の機会を失わしめる条例には,それだけで大きな問題があるように思われます。

しかし,この条例に対する反対意見の多くは,弁護士からしかなされないのではないかとも思います。
市民の目から見れば,自分の生活を守れる条例であり,このような条例が成立してしまうのも,悲しい事実として,理解できてしまうところであります。
弁護士の理解,意見が正しいという気は毛頭ありませんが,一方利益にばかり目が行き,それによって損なわれる利益が考慮されることなく,議論の余地なく物事が決まっていくことは非常に危険であることは誤認識いただきたいと思います。

毎回,くどくてすいません笑




↓ブログランキングに参加しております。 よろしければクリックをお願いします。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士
へ
にほんブログ村   人気ブログランキングへ