全国発リーガルジャパン弁護士ブログ

いじめの調査義務

Posted : 2012/08/03

東京事務所の加藤です。

平成24年6月5日に高知地方裁判所で,いじめを苦に自殺した中学生の両親から学校や担任等を訴えた裁判の判決がありました。

この訴訟では,「学校側がいじめがあったことを知っていながらそれに対し何らの対策もとらなかった」ことを理由とするものではなく,
「自殺の原因を学校として調査,報告する義務を怠った」ことを理由とするものです。

いじめは主として学校内部で行われるため,被害生徒が遺書や日記等でいじめがあったことを示す証拠を残していない限り,学校側において調査してもらわなければ,遺族がいじめの具体的事実の立証を行うことはできません。
いじめとは,特定の生徒に対して,暴力行為を伴う,または暴力行為を伴わない嫌がらせを反復継続して行うものであり,一回の暴力行為ではいじめとまでは認定されない可能性が高く,また,自殺との関連性についても疑問視されるでしょう。
この点では,学校側の調査は不可欠と言っても過言ではないと思います。
この判決でも,調査義務については

「在学中の生徒が自殺し,それが学校生活上の問題に起因する疑いがある場合,当該生徒の保護者がその原因を知りたいと切実に考えるのは当然のことであるが,保護者において,その原因に関わる学校内のいじめや嫌がらせの有無・程度等を,独自に調査することは困難である。他方,学校がその点を調査することは,学校が教育機関として他の生徒の健全な成長やプライバシーについて配慮すべき立場にあり,その調査能力に一定の限界があることを考慮しても,保護者がこれを行う場合に比べてはるかに容易であり,その効果も期待できることは明らかである。
 そして,学校法人(私立学校)の経営主体は,在学契約に基づき,保護者に対し,預かった生徒の学校生活上の安全に配慮して,無事に学校生活を送ることができるように教育・指導をすべき立場にあるのであるから,信義則上,在学契約に付随して,生徒が自殺し,それが学校生活上の問題に起因する疑いがある場合には,その原因が学校内のいじめや嫌がらせであるか否かを解明するために,他の生徒の健全な成長やプライバシーに配慮したうえ,必要かつ相当な範囲で,適時に事実関係の調査をして,保護者に対しその結果を報告する義務を負うというべきである。」

と判断しており,在学契約に付随する信義則上の義務として,調査,報告義務を負うとしております。
「在学契約に付随する信義則上の義務」とは,在学契約上,当然に認められるものではないが,学校と生徒側とで在学契約を締結,履行する以上,
学校側に行われることが想定されている義務のようなものです。
学校が協力しない限り,自殺の原因が分からないという構造にあるのですから,このような義務が学校側にあるとの判断は,個人的には,極めて妥当であると思います。

ただし,本件では,学校側は全く調査報告を行っていないということはありません。
本件では,一定の調査は行ったものの,
学校側が,遺族側が加害者と目す生徒から直接話を聞いていないこと
学校が,生徒が自殺したことを,全校生徒に伝えて広く情報を募っていないこと
が調査義務違反に該当するかが争われました。

真実の発見のためには広く情報を募ることが必須ではありますが,
自分の身近でいじめによる自殺があったと知った時の生徒の精神的ショックに対する配慮も必要になってきます。
このような対立利益がある以上,実際にそのような調査を行うか否かについては,
客観的事実として,調査が求められた時点で,当該生徒の自殺が学校内のいじめに起因すると疑われる事情がどこまであるかも判断の過程では重視されなければならないのですが,
本判決では,被害性とが学校生活上,「さまざまな問題を抱えていたことを認めるべき事情が指摘されている」ことを前提として,
「学校側において,本件自殺が学校生活上の問題に起因する疑いがあることを真摯に受け止め,その原因が学校内のいじめや嫌がらせであるか否かについて事実関係の調査をして,保護者である原告らに対しその結果を報告する必要性は,相当程度高かったというべきである」として
問題を抱えていたと思われる生徒が自殺したことで,それが当該問題と関連があるか否かはを調査すべき義務を負うとし,
さらに,その調査義務の範囲については,
「全校生徒ないしそれに準ずる範囲の生徒に対し本件自殺の事実を知らせたうえで,他の生徒の健全な成長やプライバシーに配慮しつつ,必要かつ相当な範囲で,適時に,本件自殺の原因について,学校内のいじめや嫌がらせの有無・程度等の聴き取り調査をすべき義務を負う」として
本件で全校生徒ないしそれに準ずる範囲の生徒に対して自殺の事実を知らせ,調査を行わなかったことは調査義務違反であるとしております。

この判決の考え方によれば,自殺の事実を全校生徒に知らせることは,精神的負担があるため,配慮は必要としつつも,
いじめがあると疑われる事実がある場合に限らず,自殺した生徒が問題を抱えていた場合には調査義務を負わせることになりますので
裁判所として,自殺の原因を究明することは,他の生徒の精神的負担と比較して,かなり重視されることが見受けられます。
その意味で,自殺した生徒の両親から,ある程度の具体性を以て,自殺の事実の公開及び全校生徒への聴取を要求された折には,学校としてはこれに応じ,調査を行う義務を負うと言うことになりそうです。

もちろん,人が一人死んでいるのですから,その原因究明には手段が尽くされるべきですし,それが学校生活に係わるものである以上,
学校側に相応の義務が課されてしかるべきでしょう。
他の生徒の精神的負担も軽視するべきではありませんが,自殺したことやいじめがあったこと等は生徒間で広がりやすい事実でしょうし,
そのときに「あのとき自分が止めていれば」等と一人で思い悩むくらいならば,学校側で公表した上でカウンセリングの体制を整えて板方がよほど生徒のためになるのではないかと思います。

いじめという行為は,刑法上も暴行罪,傷害罪等に該当しますし,民法上も不法行為を構成します。
しかし,その立証ができずに,学校側に調査を求めるために訴訟をしなければならないというのは,
被害者の遺族の方の負担を考えると痛ましい事態と言うほかありません。




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