全国発リーガルジャパン弁護士ブログ

医療観察法とは

Posted : 2012/05/14

 札幌の猪原健弘です。

 今年の2月に被疑者国選弁護人に複数選任されていた刑事事件(被疑事実は殺人)ですが,鑑定留置の結果,不起訴となりました。同時に,検察官から医療観察法に基づく処遇決定をするよう申立てがなされ,私は,対象者の国選付添人(単独)に選任されました。(起訴されるまでは「被疑者」,起訴された場合には「被告人」,医療観察制度のもとでは「対象者」と呼び,国選弁護人ではなく国選「付添人」と呼ばれます。)

 医療観察法とは,正式には「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律」(平成17年7月施行)と言います。この医療観察制度は,最終的には対象者の社会復帰を促進することを目的としています。
 精神の障害のため善悪の区別がつかないなど,通常の刑事責任が問えない状態のうち,全く責任を問えない場合を「心神喪失」,限定的な責任を問える場合を「心神耗弱(こうじゃく)」と呼びます。このような状態で殺人など重大な他害行為が行われることは,被害者に深刻な被害を生ずるのはもちろん,その病状のために加害者となることも極めて不幸な事態です。
 従来は,精神保健福祉法に基づく措置入院制度等によって対応することが通例でしたが,一般の精神障害者と同様のスタッフや施設では,対象者に必要な専門的な治療は困難でした。そこで,国の責任による手厚い専門的な医療と,退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等によって,その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であるとして設けられました。

 申し立て後は,鑑定命令により,被疑者段階とは異なる鑑定医(精神科医)のもとで再度鑑定がなされます。約2か月後には,地方裁判所において,多くは1回だけ審判(非公開)が開かれ,審判後数日のうちに裁判官と精神保健審判員(精神科医)の合議体で,入院決定か,通院決定か,医療観察法による医療は行わない決定の判断が出されることになります。

 もっとも,審判前には,地方裁判所においてカンファレンスが何度か開かれます。札幌の場合は夕方から開かれることが多いようです。担当裁判官と精神保健審判員のほかに,付添人,鑑定医,社会復帰調整官らが集い,それぞれの立場から,対象者についてどういう処遇が適切なのか意見を言い,話し合います。この社会復帰調整官とは,対象者の住居や家族の状況,利用可能な精神保健福祉サービスの状況など対象者の生活環境の調査をしたり,調整をしたりする人で,精神保健福祉士などが全国の保護観察所に配置されています。対象者の処遇は何が適切なのか,みんなであれこれ悩み考えるわけです。

 この制度はまだまだ試行錯誤の段階です。例えば,入院決定になった場合の指定入院医療機関は,国が運営する病院が15,都道府県が13,合計28病院しかありません。北海道には1つもありません。北海道の裁判所で入院決定を受けると,すぐに本州のどこかの病院に飛ばされることになります。その後,専門的な医療を受け,6か月ごとに入院継続の申立てと審理がなされます。
 対象者の状態によっては,指定通院医療機関での通院処遇に切り替わり,この医療観察法に基づく医療が不要と判断された場合には,一般の精神障害者に対しる精神保健福祉法などによる医療を受けることになるなど,段階を踏んでいくことになります。

 はたして,対象者にとって,適切な処遇とはどのようなものなのか。対象者は今後の人生をどのように送りたいのか。どのように送ってもらいたいのか。関与者の一人として,保護室に通い,しっかり悩んでみようと思います。




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