全国発リーガルジャパン弁護士ブログ

こうのとりのゆりかご

Posted : 2012/05/10

東京事務所の加藤です。

熊本市の慈恵病院が設置した赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」の運用が開始されて今日で5年になるそうです(ニュース)。

赤ちゃんポストは,何らかの事情により赤ちゃんを育てることができなくなった親が,匿名で赤ちゃんを預けることができるもので,運用開始後4年半で81人の利用があったそうです。

赤ちゃんポストの最大の特徴は預ける側の人間が匿名とすることが許される点です。
事情により育児が困難な場合の手立てとしては,児童相談所で受入てもらえる場合がありますが,この場合は匿名性は保たれません。
慈恵病院側としては,妊娠,出産を周囲に知られたくない人もいることから匿名性が保てる手立ても必要として赤ちゃんポストの必要性を説いております。

他方,熊本市は赤ちゃんポストの運用を検証する専門部会を設置し,最後まで匿名を貫くことは容認できないとの報告を行っております。
この背景には,子の自身の「出自を知る自由」を確保する必要があるとの考えと,母親が留学をしたいとの理由から赤ちゃんポストを利用したという事例があったため,匿名を可とすることで安易な預け入れにつながっている恐れが否定できないことがあるようです。

慈恵病院としても,匿名性を積極的に良しとしているわけではなく,ポスト利用者に声かけ等を行っておりますし,また,預けられた子の身元確認の努力も行っております。(ただし,身元が分かった方が養子を行いやすいからとの理由のようです)
もっとも,身元が確認できない子もやはりおり,報道によれば81人中14人の身元が確認できないままとなっているようです。
その意味で,出自が不明な子は発生してしまっており,その子の「出自を知る自由」は保証されなくなってしまっております。

しかし,私は,匿名を認める現在の慈恵病院の赤ちゃんポストの存在は保たれるべきと考えます。
確かに出自を知る自由は,アイデンティティとも深く結び付くものであり,その後の子の人格形成に大きな影響を及ぼす可能性もあります。
そのため,積極的に匿名を是とすることは適切ではないでしょう。

しかしながら,親が子を育てられない状況に追い込まれ,周囲にも相談できず,かつ出産の事実を知られるわけにもいかない事情がある場合に,匿名が認められないとなると,追いつめられた親が子を遺棄する事態に至る可能性は看過できません。
実際に今年の4月5月にも福岡県内で幼児の遺棄事件が起きております。
匿名ポストが身近にあれば防げたとまで言えるかは分かりませんが,匿名を認めない児童相談所では救えない命があることは動かし難い事実であると思います。

もちろん,親としての責任を安易に放棄することにつながらないか,未熟な親を助長させないかといった見方もあります。
しかし,もっとも重視すべきは子の命であると考えます。
命が失われてしまえばその後の人格形成の議論は成り立ちません。
子の命を確保した上で,可能であれば親を教育し育児に復帰させる,または身元を確認し出自を明らかにする努力をすべきでしょう。
現実に子を育てることのできない親が存在し,危険にさらされている命があることは大前提にすえなければなりません。
そして,命より重視されるべきものはありません。
出自を知る自由の重要性は認識されてしかるべきですが,命と比較すれば劣後せざるをえないでしょう。

問題の根本は,相談できない親もしくは助けを求めることができない親が存在することにあると思います。
赤ちゃんポストを利用した親であっても,その後スタッフと相談をしながら育児に復帰する親は少なくないようです。
当人が解決し得ない問題であると感じていても,しかるべき手段を取れば解決策が得られるケースはあるのでしょう。
また,児童相談所で身元を明らかにした上で子を預けることを決めることにより社会的な制裁を受けるのではないかと言った誤解等もあるかもしれません。
民間・行政を問わず,幼い子を持つ親のための相談窓口の拡充ができれば,匿名の赤ちゃんポストの存在意義は薄まっていくのでしょう。
10年に1人しか利用がなくとも,それで救われる命がある限り,廃止してよいとの結論には決して向きませんが。

ちなみに,報道では,慈恵病院の理事長が「誰から生まれたかではなく誰に育てられたかが重要と社会が理解し,養子を特別視しなくなったときに,匿名性と出自の問題はなくなるのではないでしょうか」と回答したことが紹介されておりました。
同理事長は出自を知る自由が重要視され過ぎているとの文脈で述べているものと思われ,誰から生まれたかではなく誰に育てられたかが重要との考えには同調しますが,いずれを重要視するか,また,育ちを重視するとしても生まれは分からなくてもよいと言ってよいかは多分に哲学的であり個々の考えによるものでしょう。
むしろ,相談窓口を拡充し,周囲には秘匿しつつ,該当機関においてのみ出自情報を確保するといったことが行うことをめざすべきだと考えます。

いずれにせよ,今しばらく赤ちゃんポストの重要性は極めて大きいと言わざるをえないので,それを前提としつつ,ポスト運営者としては,出自を知る自由にも配慮し,身元を明らかにする努力を継続していただきたいと思います。




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