全国発リーガルジャパン弁護士ブログ

ペットと受動喫煙

Posted : 2011/03/08

アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。

 先日、毎日新聞において、受動喫煙の影響で亡くなったことが疑われる猫の記事を見ました。この猫は数日間エサを全く食べず、体からタバコの臭いがしたので獣医が調べたところ、飼い主宅は美容院で、この猫は喫煙所でもある待合室によく出入りしていたそうです。切開してみると、腸に腫瘍があり、既に手の施しようがない悪性リンパ腫だったらしく、食欲が戻らないまま数日後に衰弱死したと報道されていました。
さらに記事では、ペットの受動喫煙に関する研究としていくつかの発表事例があり、家庭内でタバコの副流煙にさらされた猫が悪性リンパ腫になる危険性は、さらされていない猫の2・4倍で、その環境が5年以上続くと3・2倍にまで上がるという調査結果があることにも触れていました。
 この記事から、今日は現状での受動喫煙防止の取り組みと、ペットの法的地位という二つの問題を考えてみます。

 まず、日本の受動喫煙の防止については、健康増進法において、最近ようやく法規制が始まりました。学校、病院、飲食店など多数の者が利用する施設を管理する者は、その利用者の受動喫煙を防止するために必要な措置を講じなくてはなりません。具体的には禁煙スペースの設置などが求められますが、まだまだ立ち遅れていて、同じ空間で席を分けただけの効果のないものまで分煙と称する例も多いため、条例で罰則を設けて強化している都道府県もあります。
 受動喫煙については、これを防止しなかった職場に対する損害賠償請求訴訟や、この防止を求めたところ解雇された元従業員が解雇無効と従業員としての地位確認訴訟を起こした裁判例などがあります。徐々に意識が高まっていることは間違いないのですが、まだまだ過渡期にあると思いますし、ましてや現在の保護対象は勿論人間であって、ペットなどの動物は保護対象外であることは明らかです。 本来、人間よりも身体が小さいペットの方が、受動喫煙によって受けるダメージは大きいはずで、より配慮してあげないといけないのでしょうが、なかなかそこまでには至っていないのが現状です。

 そもそも、ペットなどの動物は、法的にはどのように扱われているかご存知でしょうか?
 日本では、ペットとして飼育されている動物は、法的には財産の一つとして考えられています。財産と言っても、土地などの不動産ではなく動産ですから、家財道具などと同じ扱われ方になると説明すれば分かりやすいと思います。したがって、故意にペットを殺傷すれば、刑事上も器物損壊罪という犯罪に問われますが、誤って車でペットを轢いてしまっても、過失による器物損壊は処罰されないので、何の罪にも問われないことになります。
 一方、民事の損害賠償請求は故意過失に関係なく責任を問われますが、ここでもペットは人間ではなく財物ですから、慰謝料などの請求は容易ではなく、従来はかなり低額に制限されてきました。昭和40~50年代は、獣医が過失でペットを亡くしてしまっても、数万円単位の損害しか認められないケースが多かったのです。愛するペットを失った飼い主には納得いくものではないですが、家財道具を壊されたケースと同じだとすると、まぁそんなものか…と考えられてきました。

 ところが、近年のペットの財産価値の評価、特に獣医の医療過誤裁判における評価には大きな変化が見られます。先程の数万円から平成に入る頃には数十万円の損害が認められるようになり、最近は百万円を超える損害が認められるケースが出てきました。いわゆる「ペット医療過誤訴訟の高額化」と呼ばれる現象です。
 この現象の一つのきっかけとなったのが、糖尿病の治療にインシュリンを投与しなかった獣医の過失を認めた、スピッツの「真依子ちゃん事件」です。入院から数日間後に真依子ちゃんが急死したため、獣医の過失と考えた飼い主さんは、真依子ちゃんの命の代償として、約440万円の損害賠償請求をしました。この計算根拠ですが、人間の子供が交通事故で亡くなった場合、慰謝料は2000万円程度が基準となっていることから、人間の平均寿命を約80年、スピッツの平均寿命を約14年として、この2000万円に80分の14を掛けた約350万円を慰謝料とし、ここに治療費などを加えて算出したようです。子供がいなかった飼い主さん夫婦にとって、真依子ちゃんはわが子同然であり、名前をつけるときには画数にもこだわるほど大切にしてきた真依子ちゃんの命に対して、人間並みの慰謝料を払うように求めたということです。
 この裁判は、最終的に獣医の過失を認めた裁判所が、獣医側に対して、約80万円の支払いを命じました。一昔前の数万円から数十万円の損害賠償が認められるようになり、その後の百万円単位の損害賠償への流れを作っていったわけです。
 また、医療過誤訴訟に対応するために、東京や大阪などの都市部の裁判所では医療過誤集中部という専門部があるのですが、「真依衣ちゃん事件」は、飼い主さんの希望どおり、東京地裁民事30部という医療過誤集中部において、人間と同じ医療過誤訴訟として審理されて判決が下されたことにも意義があったとされています。

 実は我が家にも、もも、げんき、だいちという名前の三匹の猫がいます。
 ノルウェージャンフォレストキャットという種類の猫で、その名の通り、ノルウェーの森で生まれ育った体ががっしりした長毛種です。敏捷で高い運動能力がありますが、性格的には愛情深く家族に忠実なところが割と犬っぽい性格の猫です。
 ももは非常に甘えん坊な女の子で、すぐに膝の上に乗って来ます。女の子ですが来客にも物おじしないで、一番堂々としています。げんきは食欲旺盛なおデブちゃんで、一番物静かな性格です。体重が9キロもあるため、いつも獣医さんにダイエットしなさいと叱られていて、運動させようとはするのですが、本人的には食べることと寝ることだけをこよなく愛しているので、一向に痩せる気配がありません。だいちは活発で常に家族の後をついて回り、一番人懐っこいですが、一番内弁慶でもあるので来客などは全くの苦手です。こうして見ると、当たり前のことなのですが、皆性格も全く異なる個性ある生き物だということがよく分かります。それぞれが人間と同じように感情を持ち、限りある命を生きているのだということがよく分かります。
 実は、私は、もともとが犬派で、猫は余り好きではありませんでした。しかし、今や、この三匹がいない生活は考えられない大切な家族です。よく言われるように、ペットではなく、家族の一員、ライフパートナーなのだと思います。

 人間に対する受動喫煙の防止措置すら不十分な日本において、将来人間だけでなく、ペットに対する受動喫煙のリスクもきちんと守ってあげられる世の中は来るのでしょうか。
 ペットごときに受動喫煙の防止など大袈裟で、そんな社会は想像できないと思われる人もいるでしょうが、先のことは分からないと思います。そこまで大昔とは言えない昭和後半の時点で、ペットの死亡事故に対して、百万円単位の損害賠償が認められる時代が来るとは思わなかったという法曹関係者も多いはずです。このブログでも何回か書いていますが、社会や時代の価値観は絶えず生き物のように変化していきますし、それをカバーする法律や様々な基準も、それに応じて変わる必要があります。少子高齢化社会の中で、真依子ちゃんの飼い主さんや私のように、ペットを家族のように大事にしている人は今後ますます増えるでしょうし、近い将来、価値観の変化とともに、ライフパートナーなどの新しい名称の方が定着し、ペットという名称は余り使われなくなっていくかもしれません。
 ペットの医療過誤裁判において、慰謝料がさらに高額化し、案外人間以上にペットの方が法律で受動喫煙から手厚く守られているような時代が来ているかもしれないですね。




↓ブログランキングに参加しております。 よろしければクリックをお願いします。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士
へ
にほんブログ村   人気ブログランキングへ